患者さんへの対処法

Q16. 高齢者や軽度な嚥下障害のある方への食事方法のポイントは?

A16.

一般の高齢者、および軽度な嚥下障害のある方または嚥下障害が疑われる方には、次の手順で食事を進めると良いでしょう。

  1. 口の中を確認
    まず、食事を始める前に手、口、のどがきれいであるか確認します。

  2. 食事をとる環境
    食事をとる環境を整備します。


  3. 食べる前に嚥下体操(嚥下準備体操)をします。
    →詳しくは、Q19へ

  4. 姿勢
    いつもの食べ慣れた姿勢がいちばんですが、むせが強いとき、口からこぼすとき、口にため込んで飲み込めないときなどは、リクライニング椅子などを利用し、60度や30度などのリクライニング位で食べると良いことがあります。このとき枕をあてて必ず頸部を前屈させておくことが大切です。


  5. よく噛む
    食べやすいもの、飲み込みやすいものから食べ始めると良いでしょう。また、よく噛んで味わいながらゆっくり食べるよう促してください。


  6. 時間リズム
    食事の時間を決めて1日のリズムをつくります。一度にたくさん食べられなければ、食事と食事の間に水分と栄養の補給を考えるようにします。


  7. 歯磨き(口腔ケア)
    食事後は必ず歯を磨き、口をゆすぎ、口とのどを清潔に保ちます(食後のお茶は、口とのどの衛生に効果的です)。

食事の際には、ご家族や介護者のきめ細かな配慮が誤嚥の予防につながります。
また介護者も含め、食事はリラックスした雰囲気でとるように心がけましょう。栄養面を考えた食材選びや薄い味付け、消化の良いものなど、あまりにも極度な気配りが続くと、かえって患者さんご本人の食欲が薄れてしまうこともあるので、極力ご本人の好きなものを食べてもらうのが良いでしょう。

「誤嚥しにくい食べ方」の工夫

■摂食時の姿勢の調整
首のすわりが悪い、頭部が後ろにそっている、あごが胸に付くまで下を向いているなどのときは、のどの動きを制限してしまいます。図のように頸部が安定した姿勢を工夫します。座位からリクライニング位にして、60度、30度など仰臥位頸部前屈の姿勢をとると良いでしょう。

■摂食時間
一回の食事にかける時間は30〜45分以内に限定すると良いでしょう。これ以上時間をかけると患者さんが疲労し、患者さん・介護者とも摂食条件や注意を守れなくなるため、誤嚥や窒息の危険性が高くなります。時間内であっても、2回むせたら止める、のどがゴロゴロしたら止めるなど、中止の目安を決めておくと良いでしょう。
■嚥下調整食(嚥下食)の工夫
食べやすさばかりに重点を置かず、本人の好物や見た目、匂いなどでおいしさを工夫し、脳を活性化することも重要です。
■液体には「とろみ」をつける工夫
液体は粘性が低い(流動速度が速く、広がりやすい)ので、嚥下時に口からこぼれたり、気道の方に流れ込みやすく、誤嚥につながります。誤嚥のリスクが高い人にたいしては液体に「とろみ」をつけると良いでしょう。
とろみをつけることにより、液体がのどを通過する速さを遅くできるので、嚥下反射が遅れても誤嚥しにくくなります。水(お茶、ジュースなど)がむせて飲めない人の脱水防止になります。とろみの強度はその人の状態に合わせて、うすめ(ポタージュスープ状)や濃いめ(ヨーグルト状)などに調整します。古くから、日本では片栗粉や小麦粉でおいしくとろみを調理してきましたが、加熱調理が必要だったり冷えると粘性が変わるなどの短所があります。最近は加熱しなくても使え、粘性の変化も少ない市販のとろみ剤が広く使用されています。
また、以前は摂食嚥下障害のある高齢者に対して、「きざみ食」が提供されてきましたが、嚥下障害例ではバラバラになりまとまりにくいため誤嚥のリスクが高く、また食物残渣が多くなるため口腔内が不潔になりやすいので、刻み食は不適です。

Q17. 嚥下障害のある認知症患者さんの対処方法は?

A17.

認知症の方の摂食嚥下障害は、対処がとても難しいものですが、環境調整によって改善できるものがあります。「摂食開始困難」「摂食中断」「食べ方の乱れ」の3点が認知症患者さんにみられる特徴で、これらについて下記の点に配慮することで、患者さんの摂食力を引き出す環境調整方法が見出しやすくなります。

山田律子. 摂食・嚥下障害をもつ認知症の人に対する看護の実際. 老年精神医学雑誌 2009;12: 1377-86.

「摂食開始困難」

摂食開始困難とは、失行や失認などの中核症状により主体的に食べ始めることができないことをいいます。しかし、食べ物を一口摂取することで食べ物と認識できたり、茶碗と箸を手に持つことの支援など摂食開始のきっかけをつくることで、その後は持続して摂食できる方も多くみられます。

用語解説

※中核症状
中核症状とは、脳の認知機能障害によっておこる記憶障害、失語、失行、失認、実行機能の障害などのことをいいます。これに対し、精神症状、性格変化、幻覚・妄想、夜間せん妄、徘徊など非認知機能障害による症状を周辺症状といいます。

「摂食中断」

摂食中断とは、摂食動作が止まり自ら摂食を再開できないことをいいます。これらは、雑音や動体物など環境内の過剰刺激によって、食事への注意を維持できずに生じます。また食事中の居眠り、誤嚥や疲労、便秘など体内環境の変化によっても、摂食が中断されることもあります。言葉による伝達がむずかしい重度の認知症患者さんでは、細やかな観察によって患者さんご本人が発するサインに気づき、速やかに対処することが求められます。
認知症患者さんにとっての体内外の環境における刺激の質と量を調整し、食事に専心できるように環境を整えることで、摂食中断も改善できることがあります。

「食べ方の乱れ」

食べ方の乱れとは、一口量を適量すくえない、あるいは早食いなど食べ方に支障をきたすなどの状態をいいます。事前に適切な一口量をカットして配膳したり、食具(食器やスプーンなど)のサイズの調整をしたりすることで改善できる場合があります。

Q18. 食べさせる側(介護者)の注意点は?

A18.

食べさせるペースはゆっくりと

嚥下障害のある方は、飲み込みにとても時間がかかるので、次々に食べ物を与えられると処理が追いつかず、誤嚥や窒息につながります。介護者は、交互食べ(一口与えたら介護者が一口食べる)を念頭に置いて食べさせると良いでしょう。口の中を見て、飲み込んだことを確認してから次に進むと良いでしょう。

一口量を少なく

時間内に急いで食べさせようとすると、どうしても一口量が多くなりがちです。一回の量が多いと、誤嚥や窒息の原因となります。もちろんあまり少なくても嚥下が起こりにくいこともあります。患者さんの状態を見ながらスプーンの大きさや、スプーンにのせる量を加減しながら少しずつ調整して食べさせてください。

むせたときも焦らない

患者さんがむせてしまったときに、まず落ち着いて、顔を下に向けて、口の中に溜まったものがあれば吐き出させてください。背中をさすったり、ごく軽くたたきゆっくり息をするようにしてもらいます。上を向いたり、深呼吸をすると、かえって飲食物が気管に入り込んでしまいます。むせた場合には、苦しくてもなるべくゆっくり息をしてもらい、落ち着くまで様子を観察してください。
また、口からの飛沫が飛ぶことを恐れて、患者さんが口を閉じて咳をしている場合は、手を口から10cmぐらいに置いて、開放した状態で咳をうながします。口を閉じていたり、開放が少ないと、せっかく排出したものが、再び強く吸引され、気管に入り込んでしまいます。
落ち着いてから、ぶくぶくうがいで口の中のものをきれいに出してしまうのもよいですが、誤って飲んでそれがさらに誤嚥につながる場合もありますので注意してください。

介護者が摂食嚥下に対して理解が不十分な場合や、患者さんへの配慮が足らない場合は、食事が楽しくなくなり、患者さんが食事そのものを苦痛に感じてしまうことがあります。次のような事柄には十分に気をつけましょう。

  • 健康者の感覚でケアを行っている
  • 食べ物を口に入れる位置や量、タイミングが悪い
  • 患者さんに対してきつく指示をし、萎縮させてしまう

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