摂食嚥下障害の主な原因

Q6. 嚥下障害の主な原因を教えてください。

A6.

脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)による麻痺や、神経・筋疾患、また加齢による筋力の低下などが主な原因です。
※摂食嚥下障害は、ある疾患が原因となり、それにより発現する症状です。

脳卒中と摂食嚥下障害

摂食嚥下障害の大きな原因のひとつは脳卒中です。摂食嚥下障害の原因疾患の約40%が脳卒中であるといわれています。
一方、脳卒中に罹患した患者さんのうち急性期には約30%の患者さんに誤嚥が認められ、慢性期まで誤嚥が残存する患者さんは全体の約5%程度といわれています。
5%というと少ない印象を受けるかもしれませんが、日本では年間約40万人の脳卒中の患者さんが発生していると推計されています。
(日本脳卒中協会 HP:脳卒中と摂食・嚥下障害

身体の衰弱や加齢に伴う以下の症状による嚥下障害

  • サルコペニア(筋肉減少症とも呼ばれます)
    咀嚼(そしゃく)や嚥下に必要な筋肉が失われてしまう状態で、最近注目されています。
    予防が一番大切です。
  • 舌での押しつぶし、咀嚼力の低下や食物を飲み込みやすい形にまとめる機能の低下(食塊形成不全)。歯が弱る、残存歯数、義歯の不具合により起こります。
  • 唾液の性状と量の変化
  • 嚥下反射の遅れ
  • 喉頭(のど仏)の位置の下降
  • 無症候性脳梗塞の存在
  • 注意力、集中力の低下
  • 合併疾患、特に多く薬剤を服用していると副作用で嚥下が障害されることがあります。

Q7. どのようなスクリーニングの方法がありますか?

A7.

嚥下機能の評価として、まず
質問紙水飲みテスト反復唾液嚥下テスト(RSST)
などでスクリーニングを行います。

●質問紙

嚥下に関する以下の質問紙は広く使用されています。

【質問紙】▼クリックで表示/非表示
氏名年齢  歳平成  年  月  日
身長  cm 体重  kg
回答者:本人・配偶者・(    )
あなたの嚥下(飲み込み、食べ物を口から食べて胃まで運ぶこと)の状態についていくつかの質問をいたします。ここ2、3年のことについてお答え下さい。
いずれも大切な症状ですので、よく読んでA,B,Cのいずれかに丸をつけて下さい。
1.肺炎と診断されたことがありますか?A.繰り返すB.一度だけC.なし
2.やせてきましたか?A.明らかにB.わずかにC.なし
3.物が飲み込みにくいと感じることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
4.食事中にむせることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
5.お茶を飲むときにむせることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
6.食事中や食後、それ以外の時にも
のどがゴロゴロ(痰がからんだ感じ)することが
ありますか?
A.しばしばB.ときどきC.なし
7.のどに食べ物が残る感じがすることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
8.食べるのが遅くなりましたか?A.たいへんB.わずかにC.なし
9.硬いものが食べにくくなりましたか?A.たいへんB.わずかにC.なし
10.口から食べ物がこぼれることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
11.口の中に食べ物が残ることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
12.食物や酸っぱい液が胃からのどに戻ってくることが
ありますか?
A.しばしばB.ときどきC.なし
13.胸に食べ物が残ったり、つまった感じがすることが
ありますか?
A.しばしばB.ときどきC.なし
14.夜、咳で眠れなかったり目覚めることがありますか?A.しばしばB.ときどきC.なし
15.声がかすれてきましたか?
(がらがら声、かすれ声など)
A.たいへんB.わずかにC.なし

各問いに対し「A」と回答した場合を異常(嚥下障害あり)、「B」「C」と回答した場合 を正常(嚥下障害なし)と判定します。「A」にひとつでも回答があった場合に「嚥下障害 あり」と判定します。
大熊るり, ほか. 摂食・嚥下障害スクリーニングのための質問紙の開発. 日本摂食嚥下リハ会誌 2002 ;6(1): 3-8.

●水飲みテスト

水飲みテスト(30mL)はさらさらした水を飲んでもらい上手く飲めるかどうかをチェックするものです。検出力が高い検査ですが、「むせる」患者さんに必ず嚥下障害があるとはいえない症例もあり、むせない誤嚥(不顕性誤嚥)を見逃すこともあります。口腔ケア後であれば、たとえ誤嚥してもきれいな水であるため比較的安全性が高いと思われますが、誤嚥して激しくむせることもあります。

※誤嚥によるむせは、突発性の呼吸障害にいたることもあるので注意が必要です。
窪田俊夫, ほか. 脳血管障害における麻痺性嚥下障害-スクリーニングテストとその臨床応用について. 総合リハ 1982 ;10(2): 271-276.

【方法】▼クリックで内容を表示

常温の水 30mL を注いだ薬杯を椅子に座っている患者さんに手渡し、「いつものように飲んでください」を合図に水を飲んでもらい飲み終わるまでの時間を測定、エピソードを観察します。

プロフィール
  1. 1回でむせることなく飲むことができる。
  2. 2回以上に分けるが、むせることなく飲むことができる。
  3. 1回で飲むことができるが、むせることがある。
  4. 2回以上に分けて飲むにもかかわらず、むせることがある。
  5. むせることがしばしばで、全量飲むことが困難である。
    (判定基準)
    1.にて、5秒以内は正常範囲、5秒以上は疑いあり
    2.は疑いあり
    3〜5は異常

※エピソードとは
すするような飲み方、含むような飲み方、口唇からの水の流出、むせながらも無理に動作を続けようとする傾向、注意深い飲み方など

●改訂水飲みテスト

3mL の氷水を用いた検査です。上記の 30mL をいきなり行うと危険と判断されるときはこちらから実施し、むせがなければ 30mL の水飲みテストを行います。

【判定】▼クリックで内容を表示
1.嚥下なし、むせる and/or 呼吸変化を伴う
2.嚥下あり、呼吸変化を伴う
3.嚥下あり、呼吸変化はないが、むせる and/or 湿性嗄声を伴う
4.嚥下あり、呼吸変化なし、むせ、湿性嗄声なし
5.4 に加え、追加嚥下運動(空嚥下)が 30 秒以内に2 回以上可能
判定不能:口から出す、無反応

(判定基準)
5 が正常、1〜3は嚥下障害ありと判定

●反復唾液嚥下テスト(RSST)

反復唾液嚥下テスト(RSST)は、患者さんの「嚥下時に喉頭(のど仏)が上にあがることを触診で観察し、30秒間に何回嚥下が行われるか診査し、3回以上できれば正常とします。
簡単で安全性の高い方法で誤嚥スクリーニング検査や経過観察には良い方法です。
RSSTが2回以下の場合には、嚥下障害の可能性があります。3回以上嚥下が可能ならばテスト食材を用いた摂食嚥下機能検査を行い、テスト食材の残留部位を中心に診査を行います。

【方法(手順)】▼クリックで内容を表示
  1. 患者さんを座位とする。
  2. 検者は患者さんの喉頭隆起・舌骨に指腹をあて、30秒間嚥下運動を繰り返させる。
    患者さんに「できるだけ何回も”ごっくん”と飲み込むことを繰り返してください」と説明する。
    喉頭挙上にともなって喉頭隆起・舌骨は、指腹をのり越え前方に移動し、また元の位置に戻る。
    この下降運動を確認し、嚥下完了時点とする。
  3. 嚥下運動時を触診で確認し、30秒間に起こる嚥下回数を数える。高齢者では、30秒間に3回できれば正常とする。
  4. 嚥下障害患者では、1回目の嚥下運動はスムーズに起きても、2回目以降、喉頭挙上が完了せず、喉頭隆起・舌骨が上前方に十分移動しないまま、途中で下降してしまう場合がある。これを真の嚥下運動と鑑別することに注意する。

口渇が強く、嚥下運動を阻害していると考えられる患者さんには、人工唾液や少量の水を口腔内に噴霧してテストをします。判定が、「ほとんど変わらない」また「30秒では嚥下運動が観察されない」場合には、観察時間を1分に延長します。観察時間の延長は、重度嚥下障害の経時的変化を追跡する場合に有用です。

才藤栄一. 摂食機能減退の診断法の開発. 平成8年度厚生省・健康政策調査研究事業分担研究報告書(主任研究者:金子芳洋) 個人の摂食能力に応じた味わいのある食事内容・指導等に関する研究 1997 : 37-58.

Q8. どのような診断の方法がありますか?

A8.

嚥下機能の診断方法として、スクリーニングを行ったあとに、[嚥下造影検査(VF)][嚥下内視鏡検査(VE)]で詳しい診断を行います。

嚥下造影検査

嚥下障害が疑われる場合や病態が不明のときは、嚥下造影検査を行います。これはX 線透視下で造影剤をいれた検査食を嚥下してもらい口からのど、食道を食物がどのように通過するか、嚥下時の全体的な 動き、誤嚥の有無、口やのどへの食物の残留の有無をチェックするものです。誤嚥をした(ワーストスワロー,worst swallow)からといって安易に食事を禁止する指示をするために行うのではなく、少しでも安全により広く食事を楽しんでもらうきっかけにするために行います。上手く嚥下できないときは適切な姿勢や食物形態などに変更し、誤嚥せず上手く嚥下(ベストスワロー, best swallow)できることを確認できれば、できるだけ口から食べることで嚥下機能の回復を図っていくようにします。これを診断的治療といいます。ある食物がのどに残留してしまう場合は同じ食物を食べ続けるのではなく、予め誤嚥せず食べられることを確認した食物(ゼリーやとろみ水など)を交互に食べるといったんのどをきれいにでき、不用意な誤嚥の危険を減らすことができます。万一誤嚥してしまった場合は、しっかり自力で喀出できるかを確認します。誤嚥しても全くむせのない場合もあるため特に注意が必要です。その場合強い咳払いを指示すれば自力で喀出できるのか、または他者が吸引処置をするか呼吸理学療法の手技をしなければ不可能なのかを評価し、日常の食事指導・摂食訓練に役立てます。装置のない場合は、設備のある病院に依頼します。

嚥下内視鏡検査

嚥下造影検査より手軽で在宅やベッドサイドなどでも検査ができます。鼻から入る細くて柔らかいファイバースコープでのどを観察します。のどが汚れていないか、のどの動き(声帯や咽頭筋群の筋力低下・麻痺がないか)をチェックします。のどが汚れていればまず口とのどのケアを徹底して実施し、のどに溜まった唾液をしっかり吸引します。咽頭残留に左右差があれば咽頭麻痺による場合があります。詳しく調 べるためは、喉頭(喉頭蓋や披裂部)の感覚を調べることも有用です。このあと実際に食物を食べてもらい上手く飲めているか、誤嚥や残留はないか、などをチェックします。飲みこむ力が正常ならば嚥下する瞬間は画面が白く光り(ホワイトアウト)詳しく観察することはできません。飲みこむ瞬間は観察できなくても、のどの中で食塊がひとまとまりになっているか、残留しやすい食物を直接観察・評価でき有用な情報となり ます。飲みこむ瞬間のホワイトアウトが観察されない場合は、飲みこむ力が弱っていると判断出来ます。青く着色した液体を飲みこんで、誤嚥の有無や咽頭残留(咽頭クリアランス)を評価する方法もあります。嚥下造影検査と同様に上手く嚥下できないときはどうしたら嚥下できるか検討し、それぞれの検査では死角となリやすい点を意識しながら相補的に行います。

Q9. 嚥下障害の重症度の評価方法について、教えてください。

A9.

嚥下障害患者さんが、どのくらい食べられているかを評価する簡便な基準があります。

摂食嚥下障害患者さんがどのくらい食べられているかを評価する簡便な基準を紹介します。これまで数多くの学会発表や論文でも使用されてきた基準で、信頼性や妥当性も検証してあり、Food Intake LEVEL Scale(FILS:フィルスと読みますが、これまで藤島の摂食嚥下状況のレベルと云われていたものです) として英語で論文になり国際的な雑誌に掲載されています。この評価基準は「食べている」状態をそのまま評価するもので、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査が行えない施設や在宅でも使用可能です。嚥下リハビリテーションの訓練効果や、食べている状況の経過などを知るのにも役に立ちます。食べている状態をそのまま評価するものなので、あらゆる職種の方が使用することができます。

Kunieda K, Ohno T, Fujishima I, Hojo K, Morita T. Reliability and Validity of a Tool to Measure the Severity of Dysphagia. The Food Intake LEVEL Scale. J Pain Symptom Manage 2013; 46: 201-6.

摂食嚥下障害患者における摂食状況のレベル

経口摂取なし   嚥下訓練を行っていない
食物を用いない嚥下訓練を行っている
ごく少量の食物を用いた嚥下訓練を行っている
経口摂取と
代替栄養
  1食分未満の(楽しみレベルの)嚥下食を経口摂取しているが代替栄養が主体
1~ 2食の嚥下食を経口摂取しているが代替栄養も行っている
3食の嚥下食経口摂取が主体で、不足分の代替栄養を行っている
経口摂取のみ   3食の嚥下食を経口摂取している
特別食べにくいものを除いて、3食経口摂取している
食物の制限はなく3食を経口摂取している
    摂食嚥下障害に関する問題なし(正常)
摂食嚥下障害を示唆する何らかの問題 : 覚醒不良、口からのこぼれ、口腔内残留、咽頭残留感、むせなど
*嚥下訓練 専門家、またはよく指導された介護者、本人が嚥下機能を改善させるために行う訓練
*嚥下食 ゼラチン寄せ、ミキサー食など、食塊形成しやすく嚥下しやすいように調整した食品
*代替栄養 経管栄養、点滴など非経口の栄養法
*特別食べにくいもの パサつくもの、堅いもの、水など

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